レバ刺し最後の日

本日をもって生レバーの販売が禁止されるという。

かつて屋外で暮らしていた人類は、その場その場でこの物体は果たして食べることが出来るのかどうか自問自答しながら生きてきた。生存するとは、これを口にして良いものか、安全なのかを常に考えることだった。

初めてナマコやイナゴを口にした人間は飢えていたのだろうか?

食べることは冒険であり、究極の自己責任だった。

人は口に入れてみることで経験則を積み上げ、食の安全に対する判断力を磨いていった。

とりわけ日本列島に暮らす人たちは生食を好んだ。高温多湿であり、すぐさま食物が腐敗してしまうような環境にもかかわらず、タンパク質に火を通さず食することにこだわった。刺身文化はその最たるものだ。

しかし近代に入ると人々は『食の安全』を国家の手に委ねるようになった。国家が食べていいとお墨付きを得たものは何の懸念もなく口に放り込む。運悪く食あたりになったら、それはすべて国家の管理責任になった。

人はこれが食べられるものかどうか、判断することを放棄した。

これを生命力の衰弱と言わずして何と表現できるのだろう。

写真は新橋『星遊山』のレバ刺し。6キロのレバーの中から先端の900グラムのみを使ったもので、角が尖っていた。